現地研修を中心としたオープンコミュニティによるスタディクラブの運営 ~節なり会 (群馬県館林市・板倉町など)~

節なり会はキュウリ生産者が中心となり平成30年に設立されたスタディクラブで、JA部会組織などから独立した運営を行っている。同会の運営内容と活動内容の中心である現地研修等について報告する。(2024年6月4日公開)

(1)節なり会と会員生産者の栽培の概要

1)節なり会の概要

  •  宮崎県のラプター会(JA宮崎中央田野支店胡瓜部会のスタディクラブ)の活動を参考に5年前に立ち上げた。オープンなコミュニティ活動を行い、他県からの参加など出入りも自由にしていることが特徴である。有料会員16名、無料会員(LINE)約90名(半分は関係機関など)、20~30代の生産者が多い。
  • プロファインダークラウド等による環境データと収穫データを会員間で共有している。売上高については共有していない。
  • 会員出荷先はJA邑楽館林が大半で、一部直売所などがある。
  • JA管内では新規就農者が毎年2~3名いる。環境制御装置導入者は管内500軒中50軒程度で、うち節なり会会員が20軒程度である。

2)節なり会会員の栽培概要

  •  抑制栽培(摘心栽培)+促成栽培(更新つるおろし栽培が中心)の年2作型である。品種は抑制栽培ではまりん(埼玉原種育成会)が多く、促成栽培では数種類が作付けされている。当初の促成摘心栽培より、現在は更新つるおろし栽培に徐々に収束してきた。
  • 会員の収量は会の立ち上げ当初より伸びており、最高は40t/10a程度(小山泰平氏)であり、35t/10a程度の会員も多いが、各々の経営のスタイルにより目指す収量は異なっている。ハウスは建設から50年程度経ったものから新設のものまで、様々である。

(2)現地研修の具体的な内容

 1)現地研修の形態

  •  月2回の現地研修を行っている。全体を地域別に2グループに分け、1回の研修で1グループが5~6軒のハウスを視察巡回している。他に産地視察も都度行っている。
  • 定植時期が近いグループを巡回して、様々な生育状態のキュウリを観察する機会としている。移動車中なども利用しハウスごとの生育の違いなどについて意見交換を行い、巡回内容を振り返っている。
  • 埼玉県加須市の(株)田島農園(60a、更新つるおろし栽培、越冬+無加温+抑制+半促成)の田島祥之氏が参加し、摘葉方法など具体的なアドバイスを実演しながら行うことで、内容が深まった経緯もある。
  • 現地研修中にスマホでのアンケートを行い、例えば視察したキュウリの樹勢を3段階で評価するなどし、集計することで自分の評価を数値化し、ズレがあれば把握できる仕組みとしている。他に葉面積や着果量などもアンケートを行う。(最近は、アンケートは行っていないとのこと)。

2)現地研修での意見交換とモチベーションの向上

  • トラブルが発生しているハウスにも巡回をするようにしている。他の生産者からの客観的な意見を聴く場とし、意見は遠慮なく言う形にしている。また良い点はほめるようにもしている。
  • 個々の生産者は、普段はほめられることもなく、また他の生産者のやり方を知る機会も少ないのが実態である。栽培技術向上の他に、モチベーション向上の場ともなっている。
  • 研修生や新規就農者でも、ベテラン生産者など、他の生産者のやりとりを聴くだけでも参考になるような場としている。多くのハウスを巡回して、そこで得られる情報量も大切にしている。

3)現地研修の成果

  • 特に新規就農者には現地研修での取組みが有益となっている。
  • 例として新規就農者の菅谷勇太氏は、低軒高のアングルハウス8aを研修先の生産者から借り栽培を開始している。換気装置などは手動操作であり、環境モニタリング装置も利用していないが、すでに次の規模拡大を視野に入れながら栽培をしている。これは、必ずしも高機能なハウスではなくても、収量や収益を上げる方法を現地研修から修得しているものと考えられる。

4)ハウス建設費高騰に対する対応について

  • 5年前にハウス新設した際の建設費は坪5万円程度であったのが、(2023年)現在は8万円~10万円に高騰している(小山氏)。
  • 佐賀県のゆめファーム全農SAGAを視察し、56t/10a程度の高収量であった。そこでの高軒高ハウスと養液栽培施設の設備投資について20年程度の回収期間が必要な計算であった。一方で現実の経営では、投資回収期間を10~12年程度とする必要がある。佐賀県の視察では、他に武雄市のトレーニングファームで2年間研修を行った後に補助事業で建設したハウスで新規就農を行う取組みや、伊万里市での養液栽培の取組みなど、補助事業を活用した実際の状況を視察した。現在のハウス建設費高騰の中では、特に新規就農者の初期投資を抑えるよう、既設ハウスのリフォーム、カサ上げ工事などで対応する必要もあると考える(田島農園、田島氏談)。

5)その他

  • 他県からの参加者は、節なり会での活発な意見交換に魅力を感じている。参加者の地元では環境制御技術の導入等について保守的な意見も多く、議論が難しいという事情もあるためである。
  • 最近は労務管理に関する話題が増えている。親世代の引退が迫っており、今後は雇用型経営への移行が必要な状況にあるためである。

6)節なり会川島会長ハウスと栽培概要

  • 10a鉄骨ハウス、軒高3.5m(基礎込で約4m)、両天窓、外張エフクリーンGRニューナシジ、内張LS2層
  • 重油炊き温風暖房機、灯油炊きCO2発生器、循環扇設置タイプ加湿器(スズミスト)
  • 統合環境制御装置(Next80)、養液土耕装置(スナオタイマーによる制御)、土壌EC等モニタリング
  • 抑制栽培(6月定植)+促成栽培(11月定植)、品種:夏彩(埼玉原種育成会)、定植後の乾燥防止のため加湿器を導入。
節なり会会長 川島英彦氏ハウスでのキュウリ栽培の状況(2023年7月6日撮影)

 

(3)現地調査による委員※※所見

調査日:令和5(2023)年7月6日(木)
調査場所:群馬県農業技術センター東部地域研究センター、現地圃場(川島会長ハウス)

(東出委員)

  • スタディクラブとして環境データや出荷量の共有に加えて、技術レベルの高い生産者を交えた月1~2回の現地研修が効果的であると考えられる。LINEのアンケートにより樹姿を見る目を養い、互いに意見を言い合い褒められる関係が、技術向上につながっている。
  • 促成+抑制の作型で10a当たり40tを出荷する高いレベルの生産者が複数存在する産地である。20~30歳代中心の新規就農が年に2~3名おり、2年間の研修で高い技術を取得した後、就農しており、産地としても今後が期待できる。

(阪下委員)

  • 関東でこの規模のスタディクラブは珍しく、地域も比較的広域である。施設内容も多岐に渡っているが、基本的な技術向上に向けて、中堅層だけでなく、世襲ではない新規就農者の拠り所になっているのは素晴らしい。
  • 勉強会の開催回数は月1~2回と多いのが、成功しているスタディクラブの特徴だが、このグループも同様で、各生産者の現場を回ることでアドバイスをし合っている。まさに切磋琢磨という感じの雰囲気は注目に値する。

(林委員)

  • 節なり会は、自由参加型の縛りの少ないスタディクラブといえる。会員同士(有料会員に関して)が、意見を遠慮なく言い合える人間関係を築いているように感じる。
  • 会員ハウスの巡回研修における自由な意見交換や成育評価、環境データおよび収量データの共有などの活動を通して、互いにモチベーションを高めるとともに、各会員がより上位の会員を参考にしながら技術力を高め、単収(収益)増を図っている。
  • 経験の浅い新規就農者が会員に参加しており、これらの活動を通して、新規就農者の早期レベルアップを後押ししていることも評価できる。

(4)参考:全国野菜園芸技術研究会での節なり会初代会長永田亮氏の講演概要

2023年8月2日の全国野菜園芸技術研究会神奈川大会での永田亮氏講演(事例発表:現地研修とデータ活用により施設キュウリの技術向上を図るスタディクラブ”節なり会”について)より概要を記す。

  • 節なり会の活動の3本柱として、データ共有、現地研修、視察研修がある。
  • 組織運営のコツとして、メンバーの発言に片寄りがないよう、雑談を盛んにすること、会う回数を増やすこと、同質化を防ぎカオスを許容すること、意見を言い合えることなどに留意している。メンバーが恥ずかしさを捨て、悩みや弱みも共有できるようにしている。
  • Googleのスプレッドシートで出荷量を共有し、実力の高いメンバーがわかるようにしている。そのことで現地研修の際にも、実力の高いメンバーにいろいろ聞くことができている。
  • 農家は普段は人と出会える場が少ないため、節なり会はそれを提供するプラットフォームとして機能している。農家同士のコミュニケーションは足りないことが多く、さみしさを感じることもある。栽培以外のことでのコミュニケーションを求めることもある。
  • メンバーが学びに集中できる環境を提供し、持ち帰れるものを一つでも作ることを優先している。運営側の大変さはなるべく出さないようにしている。
  • メンバーの成長を最優先とし、その中で新しいメンバーも増えている。研修中の人が参加し、多くの圃場を現地研修で観て、就農初年度よりトップクラスの成績となることもある。
  • 視察先やSNSなどでの接点を通じて、メンバーが定期的に外部より情報を持ち込むようにしている。外部に目指すべき姿があるものと考えている。

※本報告は、令和6(2024)年3月に公開した「令和5年度スマートグリーンハウス展開推進事業報告書(別冊2)「スマートグリーンハウス転換の手引き ~導入のポイントと優良事例~」」に一部加筆修正したもので、内容は公開時のものである。現地調査はスマートグリーンハウス検討専門委員会の委員により行われた。

※※スマートグリーンハウス検討専門委員会 委員の所属(当時)、および氏名

  • 農研機構野菜花き研究部門 研究推進部長 東出忠桐氏(スマートグリーンハウス検討専門委員会 委員長)
  • オイシックス・ラ・大地(株)戦略調達セクション ファウンダー 阪下利久氏(スマートグリーンハウス検討専門委員会 委員)
  • 東海大学名誉教授 林真紀夫氏(スマートグリーンハウス検討専門委員会 委員)
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